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いつかきっとがもう間近

現のこと、夢のこと、

ピエロの操り人形がいた町

お題

お題「好きな街」

ずい分昔に住んでいた山口に、道場門前という街がありました。街という漢字より、町の方が似合っていました。

そこに今もあるのかわかりませんが、古めかしい年代物の小屋、いえ、失礼ですね、店? がありました。店先に古めかしい、ホコリをかぶったブリキで作られたオルゴールや、木材で作られた汚らしい何かがいつも置いてありました。

その古さ、ホコリ、汚らしさが私の琴線にふれ、暇さえあれば覗きに行っていました。昼だというのに薄暗い店内でした。恐る恐る、物を落とさないように気を付けながら見て回りました。

ほとんど、その店で何かを買ったことはありません。お小遣い1000円時代の頃で、何千円もするものばかりで手がでません。

店の一番奥にピエロの操り人形がぶら下がっていました。いつも物悲しそうに店内を見下ろしていました。そのピエロとは気が合いそうでした。いつも単独行動しかできない私と同じ匂いがしました。いつの間にか、そのピエロに会うために通うようになりました。

けれど、山口を離れなくてはならなくなりました。最後の日、ピエロに会いにいって、「きっと連れに来るから待っていてね」と約束しました。

それから進学してお小遣いが増えたのでそれを半年貯めて、学校をさぼって山口の道場門前のあの店に行った記憶があります。

店先がなんとなく小綺麗になっていたので、嫌な予感がしました。店に入ると、前なら店の奥の薄暗い場所に座っていたおばあさんが、店の真ん中に立っていました。その隣に見たことのない若作りをしたお姉さんがいました。店内は蛍光灯が明々とついていました。

「あの、ここに掛かっていたピエロの操り人形はどこですか?」

私は何も掛かっていない天井方向を指さしました。

「ああ、あれね。あれはもうないよ。いつまでもあるわけないじゃないか」とおばあさんは言いました。

「売れたんですか?」

「あ、ああ」

煮え切らない返事をきいて、もしかすると電球から蛍光灯に付け替えたとき、捨てられてしまったのかも、と思いました。

それから長いこと、訪れていません。あの街、町、本当に好きな街でした。