いつかきっとがもう間近

現のこと、夢のこと、

メールを待つ時 ―― 想像してごらん ――

 冗談ではない! いや怒っているわけではない。今もジョン・レノンの『イマジン』のメロディが頭の片隅に流れている。「想像してごらん」と私をなだめすかし、しかし焦燥感を煽るのだ。

 メールを見たらすぐに、「メール、見たよ」だけでもいいから返事がほしい。でも、そんなことさえ言えない私はメールを出すたびに、5分待つ。30分待つ。1時間待つ。1日待つ。2日待つ。

 もしかすると、と想像する。「想像してごらん」

 バイトで疲れて寝ているのかな。

 風邪をひいて、うなされてるのかも。

 迷惑メールが襲来していて、メールに無頓着になっているのかも。

 友達がそばにいて、親のメールに返信するのが恥ずかしいのかも。

 ここらへんから想像が妄想に近くなる。

「想像してごらん」

 人間関係がうまくいかなくて、うつ病になっているのではないか。

 悪い遊び仲間ができて、よからぬことをしているんじゃないか。

 事件に巻き込まれて、行方不明になっているのではないか。

 急いでテレビのスイッチを入れる。テレビの画面に山中の事件現場が映っている。身元不明の胴体を地元の人が発見。ああ!

 でも、大丈夫。現場はここから遠すぎる。いくら事件に巻き込まれても、そんなに遠いところまで、行きはしないだろう。違う。息子ではない。

 それでも、違うということを確かめたくて、自分に理由を作って息子のマンションに行ってみる。「息子あてに来た郵便物を郵便受けに入れるだけ」だ。

 マンション1階、狭いエントランスにゴミ箱がダイレクトメールで埋まっている。それを渾身の力でどけて、息子の郵便受けを探り当てた。郵便物を入れようとしたら、郵便受けの細いフタがハラリと開いた。中には息子あてのダイレクトメールとチラシが数通、それから……、知らない女性の名前の手紙がはいっていた。間違って入ったのだと思って、一応番地と部屋番号を二度見した。息子と同じ番地で部屋番号だった。

「想像してごらん」

 それからはよく覚えていない。息子の部屋のインターホンを何度も何度も鳴らした。そして、携帯電話を取り出して、しつこくしつこく電話した。

「想像してごらん」

 

 息子が電話の向こうに出た。

「今、どこにいるの?」

「ん、自分ち」

「母さん、マンションの下にいるんだけど、降りてきて」

 すでに、命令口調になっていた。息子の返事も待たずに、自分から電話を切り、祈るような気持ちで息子が現れるのを待っていた。もしいつまでも降りてこなかったら。

「想像してごらん」

 

「想像しています」

 ごめんなさい。母さん、一人で焦って心配して。

 前に住んでいた人あての手紙だった。息子は自分のではないので、何度も郵便受けの外に出したらしい。でも、郵便局員は何度も息子の郵便受けに入れたらしい。無理もない。部屋番号のみで名前はどこにも書いてない郵便受けなのだから。

「母さん、めんどくさい」「母さん、騒ぎすぎ」「母さん、僕を信じてない」

 きっと、息子はそう思っているでしょう。本当に、馬鹿なバカな母親です。

 でも、無事で良かった。あまりの安堵で、メールを見たらすぐに、「メール、見たよ」だけでもいいから返事をしてね、と言い忘れた。ああ、またジョン・レノンの歌が流れる。

 

イマジン

イマジン